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気付きの言葉COLUMM

恥ずかしがり屋の奈緒ちゃん

 家内と行きつけの小料理屋に行った。私が躊躇をしていると、家内が私に代わって店主に尋ねた。

 

 「こないだから、主人が卵焼きに凝っていて、業務用の調理道具店に行って、銅製の卵焼き器を買ったのですが、引っ付いてしまってダメなんです。どうしたらいいんですか?」「やめろよ、そんなことをプロに聞くのは、恥ずかしいやないか。まだそんなレベルじゃないのに」

 

 「いいですよ。新しい銅製の卵焼き器ですか?油がなかなか馴染まないでしょう。それはね、その器に2/3ほど油を入れて高温にさせたらいいんですよ。冷えたらまた高温にする。それを一日3回ほど。それを3日ほど続けたら馴染んできますよ」

 

 早速家に帰って試してみた。言われた通りに、その後は油が馴染んで引っ付かなくなった。こんなコツはよほどの専門書でないと載っていないのだろう。流石に料理人の世界では奥義があるもんだと感心した。

 

 恥ずかしがらずに人に聞くことの大事さを痛感した。まだ始めたばかりで、毎週のように卵焼きを作っているが、なかなか形と味が落ち着かなく手強い。しかしなかなか楽しい。これもあるお客さんの社長が作った卵焼きを頂いたらあまりにもおいしくて、真似をしたくなって出汁の作り方と道具を教えて貰ったためだ。

 

 男といえども卵焼きの一つくらいは作れなくてはいかんと、息巻いたもののなかなか奥深い。もちろん家内には、この道具はまだ使わせてはいない。これを使って簡単に上手に作られたら、意気消沈して投げ出したくなるからだ。

 

 オリンピックで感動を与えてくれた小平奈緒選手、非常に恥ずかしがり屋だそうだ。小平選手は三姉妹の末っ子。大勢の前に立つのは昔から苦手で、ついたあだ名は「恥ずかしがり屋の奈緒ちゃん」だそうだ。レースで見せる「怒った猫」とは別人のようらしい。小平選手のすごいのは、気配りもさることながら、オランダまで教えを求めて行ったことだろう。ソチオリンピックで不本意な成績に終わったときに直ぐオランダ行きを決めたそうだ。ライバルのいる国へ行く勇気は並大抵のことではない。そこで学んだことに独自の考え方をプラスして、見事オランダの選手以上の実力をつけた。恥ずかしがり屋さんが、そこまでやったことに心から敬意を表したい。

 

 経営の世界でも同様だ。どんどん聞きに行けば良い。社長自身がわざわざ聞きに行けば、大抵は何か教えてくれる。ライバルであっても相手が自社より格下と考えていれば、何かしらアドバイスは貰える。アサヒビールを立て直した樋口社長は就任時3か月の間に1,000人の人に聞きに行ったそうだ。競合先のキリンビールにまで聞きに行った話は有名だ。

 

 これ以外にもヤマダ電機の社長が創業時、初めて店を作るときに立地周辺に住む2万軒の人に聞きに行ったという。並大抵のことではない。

 

 我々はどうしても恥ずかしい、聞くのをためらいがちだ。そして勝手にお客さんはこう思っているはずだと決めつけて、お客さんの求めている価値以外の商品、サービスを提供してしまう。そして失敗する。

 

 聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥。どんどん恥ずかしがらずに聞きに行こう。どうしたらいいんですか?教えて下さいと言われるほど、相手にとっては承認された気分になり、気持ちの良いものはない。

 

 そして教えて貰ったことをそのまま使うのではなく、小平選手のように、独自の工夫をして、卓越していければ良い。

 

税理士・中小企業診断士 安部 春之