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気付きの言葉COLUMM

頑張らない経営

 社員の残業時間が月10時間以内で「頑張らない経営」を標榜していながら、競争の激しい家電量販業界において毎期増収増益を続けている不思議な上場企業がある。それはケ-ズデンキだ。働き方改革が提唱されるはるか以前から超ホワイト企業でありながら、業界4位の売上である。何故そんなことが可能なのか。

 

 二代目社長である加藤修一氏が書いた、すべては社員のために「がんばらない経営」(株式会社かんき出版)にその理由が詳しく書かれている。ただし書店で探しても既に絶版になっているため、アマゾンで中古本を探すしかない。私も、この本が非常に経営の参考になったということを聞いて、直ぐに買って読んだ。他の有名な経営者や経営コンサルタントとはまるで発想が違うということが分かる。大きな経営判断の基準は「長い目で見たらどうか」だ。

 

 たとえば、どこの量販店でもよくある、メーカー保証以外に5年間の長期保証をつけます、その場合これだけの金額です、という制度がない。ケ-ズデンキで買ったということが分かれば無料で長期保証に応じている。理由は、上乗せの保証をすることで他社は儲けているが、そこでさらにお客様から稼ぐという発想がない。ポイント制も、店が儲けてお客様のためにならないと判断し導入を見送った。新製品が出ても無理に売り込まない。売り場で丁寧な説明をして、購入者に安心感を与え、気にいったお客様の層を増やすことで売上を上げている。

 

 社員には自己目標はあってもノルマがない。ノルマを設定すると、いくらお客様を大切にしなさいと言われ、それを遂行しようとしても、売上の数字を挙げるために、利益のよいものを勧めるようになる。また、ノルマを達成しようという焦りから、親身になってゆったりとお客様に対応することができなくなる。利益の上がらない商品にお客様が関心を持つと、そのお客様に時間を取られてしまうので社員は逃げ腰になる。またクレ-ムやトラブルなどがあった場合にも、対応がおざなりになるからだ。

 

 徹底的に顧客本位を目指すが、その前に社員が一番で、取引先が二番である。お客様がいなくてはどんな商売も成り立たないし、取引先ともお互いに能率を上げ、利益もともに上げていかなければ長続きしない。取引先との良好な関係がなければ、お客様の欲しい商品を提供することに支障をきたす恐れが出てくるためだ。当然お客様と直接応対しているのは社員で、その社員が会社から大切にされていると思えて初めて、気持ちよく応対できる。

 

 昨今、企業は働き方改革の方法を問われているが、このように「ゆっくり成長」「頑張らない経営」も議論してはどうだろうか。ただしケ-ズデンキの「頑張らない」とは、やらないことを明確にし、やるべきことはきちんとやりましょう。できもしないことを望まないということである。生産性向上のために、やらないことを探すところに最大の特色がある。

 

 これ程の大企業であっても出来るならば、組織の小さい我々中小企業ならば出来ないことはないはずだ。どう売り込むかよりも、どうすることが顧客にとって一番価値を生むかに徹底的にこだわってみたい。そこでは経営者の真の実力が問われて来る。そのためには、まだまだ経営のことは知らないことが多いという謙虚な気持ちで、日々経営の勉強をしなければいけない。

 

 調理師が同じ食材を使っても大きく味が異なるのと同じく、人・物・金、限られた経営資源をどう活用するかは経営者の腕の見せ所だ。

 

 「経営者は経営しなければならない。経営者は学び続けなければならない」(P.F.ドラッカー)

 

税理士・中小企業診断士 安部 春之