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武田薬品工業の挑戦に学ぶ

 創業230年を超す歴史のある日本最大の製薬会社、武田薬品工業が大きな勝負に出た。アイルランドの製薬会社であるシャイアー社を6兆8千億円で買収するという(5月9日付新聞各紙報道)。これまでの日本の最大のM&Aが2年前にソフトバンクがアーム社を買った3兆3千億円であったことからすると史上最大の買収規模だ。シャイアー社を買うことで新薬を生み出す研究開発体制の強化、世界最大の米国市場における販路拡大、シャイアー社が強みを持つ希少疾患の治療薬や血液製剤を新たな収益の柱とすることなどを挙げている。しかし年間売上1兆7千億円、有利子負債1兆1千億円、シャイアー社の売上を加えても3兆3千億円の会社が、新たに金融機関から3兆円を借り入れるという判断には心底驚いた。

 

 会計の世界では、借入残高の安全ラインは年間売上の3割程度まで、5割を超すといつ潰れてもおかしくない、ましてや年間売上を超える借入は不動産賃貸業のような、長期安定収益の期待できる業種に限られると考えられている。製薬も同じだろうか。果たしてこれだけの巨額の債務を背負って武田薬品工業は持つのか。

 

 武田薬品工業の目論見では、予定通り19年6月までに買収手続きが完了すれば、その後1年で統合が進み、様々な効果が見えてくる。統合効果で稼ぐ力が向上し、3~5年後までに負債を大きく減らせるという。

 

 この買収劇を主導したのは2014年から社長となったクリストフ・ウェバー氏だが、バックには創業家三男である武田国男氏の意向も働いているのだろう。2003年まで社長を務めたが、その間武田の売上規模を1兆円にまで積み上げた。国男氏は抗生物質やビタミン剤といった単純な製品が主力だった武田の事業分野を、患者数が多く治療が難しい生活習慣病へと高度化した。これで利益を積み重ねた。そして企業買収の原資を積み上げたところで社長の座を子飼いの長谷川閑史氏に譲り、その後ウェバー氏に託した。過去に1兆円の買収を指示した時のコメントは、「いまの武田にとって最大のリスクは、変わらないことや」と答えた。そしてウェバー氏に社長を託した時にも、「我々にはまだ、買収した企業を日本から統治するほどの力量がない。そして私のグローバルマーケティングの感覚は、もう古い」と答えたそうだ。

 

 会社が世界規模で生き残るため、変わらないことのリスクを挙げ、そしてそのために自分自身の立場さえ変わる対象にしていることに心から敬意を表したい。そして何としてもこの買収に成功して世界のトップ企業になって貰いたい。

 

 歴史の長い会社は往々にして、変化を嫌う。そんな中で下した武田薬品工業の挑戦に我々も学びたい。我々の会社は今年、昨年と比べて何を新たに始めるのか。何に挑戦をするのか。そのために古くなってきた製品、サービス、仕入先、顧客との関係は見直すものがないだろうか。廃棄をしなければ新しいものが入ってこない。古いものに執着していては、それらの問題解決にばかりに時間がとられ、肝心の機会の方に意識が向いていかない。優秀な会社の会議では、既存の製品の問題解決にかける時間と同じだけを新しい製品、機会の開発の議論にかけるという。挑戦しない会社では、売れ行きの落ちて来た商品をどのように元に戻して、再度伸ばせるかに時間を割く。そして「昨日の商品」に社内で一番優秀な人間を配置する。本当に必要なのは「明日の商品」に優秀な人を配置するべきだ。経営者は余程その覚悟がないといけない。

 

 かくいう私も出来ていなかったものの、そうあるべきだと最近教えられ、痛感したところだ。

 

税理士・中小企業診断士 安部 春之