《日 時》 平成20年7月24日(木)
《講 師》 潟Aベ経営  代表取締役 安部 春之
《テーマ》

−実践行動経済学入門−

経営判断のミスは3パターンしかない

はじめに

今回は、5月号の『あべなび』にも取り上げた「行動経済学」について、日経ベンチャーの記事やその他具体例を含めて解説しました。その一部について、ご紹介します。


行動経済学入門

次の質問にお答えください。これが正解、不正解という問題ではありませんので、考えすぎずに気楽にどうぞ。

 A) あなたはある有名なスポーツ用品メーカーの経営を任されたとします。その会社は「インテリジェントな」走りを約束する革新的な靴の開発に、すでに10億円を投資しています。その靴は、地面の状態や利用者の性格に応じて、必要な調整を自動的にしてくれます。このプロジェクトが80%達成された段階で、同じ規模の他の会社が同じ特徴を備えた靴を既に販売していることがわかりました。その靴はプロジェクトを進めている靴より機能的で、値段も安いものです。さてあなたはプロジェクト達成に必要な残りの20%を投資しますか。


 B) ドットコムが1株2,000円で上場されました。市場で張り合いそうなライバル会社が、同じ株価でちょうど1年前に上場していました。現在その会社の株価は1万円になっています。ドットコムの株価が、1年後にはいくらになるか考えてみてください。


 C) 次の二つのうちどちらの方が余計に悔しいと思いますか。
 A:山下さんはX機械製作所の株をいくらか持っています。昨年その株を売ってY電力会社の株を買おうとしましたが、結局はそのままにしてしまいました。ところが、もし買っていたら150万円、得していたことがわかりました。

 B:秋田さんはY電力会社の株を少し持っていました。昨年その株を売ってX機械製作所の株を買いました。ところが、もしY電力会社の株を売らなかったら150万円、得していたことがわかりました。


人間の行動特性

A) 自信過剰に陥る心理《埋没費用効果》

 2.A)の問いでは、自社製品がライバル会社の製品と競争できるわけでもなく、新たな投資がさらなるお金の無駄遣いになっても、途中まで進めたプロジェクトをあきらめず、必要な金額を投資してしまいがちです。しかし、既に投資した金額をゼロとして、同じ質問をされた場合にはコストと将来の利益を念頭において、的確な判断ができるものです。
【対策】
・継続・撤退を判断するときは、その事業に注ぎ込んだコスト、労力はいったん忘れる。
・事業の費用は「過去の苦労」ではなく「 将来に向けての費用対効果」で考える。


B) 萎縮する心理《アンカリング(係留効果)》

 2.B)では、ライバル会社の株価は質問の答えを左右するものではないのに、その株価がアンカーの役割を果たし、基準としていまいます。
【対策】
・未知の相手との価格交渉では、相手が自分を「アンカリング」のわなにはめようとしていないか確認する。
・発展途上国などでは、相手は最初、2倍以上の価格を提示してくると心得る。


C) 思考停止する心理《現状維持バイアス》

 2.C)の質問には、現在及び将来における「後悔を嫌い、避けたい」という人間の信念が、意思決定に大きな影響を与えています。人は短期的には失敗した行為のほうに強い後悔の念を覚えますが、長期的にはやらなかったことを悔やんで心を痛めます。
【対策】
・決断を先延ばしにするときは、現状維持バイアスに陥っていないか確認する。
・外部の意見を採り入れるなど、決断プロセスの固定化を防ぐ。

まとめ

 人間は必ずしも経済合理的に思考、行動しているわけではないということがお分かりいただけたかと思います。判断ミスをしないためには陥りそうなわなを知ることが大切です。 
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