《日 時》 平成21年7月29日(水)
《講 師》 安部税理士事務所  代表 安部 春之
《テーマ》

−農政の大転換−

農地法の改正と日本農業の展望

1.平成の農地改革

 農地法が全く新しくなった。改正農地法は「所有」から「利用」に大きく目的が変更され、平成21年6月24日から6ヶ月以内に施行される。一般法人に賃借での参入を認め、一般企業やJAが農地を借りて農業に参入しやすくした。消費者のニーズが、生産履歴の明確な国内生産の青果に対して高まってきている。企業の農業参入にも注目が集まる。



2.食料・農業の現状

 食料自給率は、長期的に低下してきている。供給熱量ベースで、1960年度79%だったものが2007年度には40%にも減少した。2008年には基幹的農業従事者のうち65歳以上が59%を占めている。また、主な農産物の輸出は、特定の国・地域に集中しているため、輸出国での不作や作付けの転換等が国際市場に大きな影響を及ぼす構造となっている。近年ではバイオ燃料需要の増加、異常気象の頻発等の要因が世界の食料需給に大きな影響を与えている。

 2008年6月には「学校給食法」が改正された。学校給食では、現在、米飯給食の全国平均回数は、目標の週3.0回に達しており、地域産物活用割合は、2007年度の全国平均23.3%を2010年度までに、30%以上とする目標を定め、推進が図られている。

 日本の農業は、耕地面積の減少や耕作放棄地の増加、農業従事者の減少・高齢化が進行している。農家1戸当たりの農地面積は、諸外国と比べると、大きな格差がある。

 土地利用型農業では、農地が分散している場合、圃場間の移動時間の増加、機械の効率的な利用が困難といった問題から、規模拡大のメリットが十分に活かせず、拡大できる規模にも限界が生じている。このため、担い手への農地の集積に加え、農地が面的にまとまった形で利用できるようにすることが重要となる。




3企業の農業参入

 カゴメやイトーヨーカ堂などの大手企業の農業参入ばかりが注目されているが、実は地方の建設業や食品メーカーなど中小企業の参入数のほうが圧倒的に多い。

 農業生産法人以外の一般企業等が市町村から農地を借り入れて農業参入できるようにする規制緩和措置(いわゆるリース特区)が2003年度に導入され、2005年度には全国展開された。20089月時点では320社が950haの農地で農業を行っている。そのうち、建設業が104社と32.5%を占め、食品会社は65社で20.3%に上る。神戸市では、トーホー(流通)が食の安心・安全の充実を目指すべく20068月に農業に参入している。

建設業と農業は親和性が高く、仕事の繁忙期が重ならないことも農業に進出する大きな要素だ。初期作業を自分たちで手がけられるのでコストを圧縮しやすい点は強みとなっている。米づくり名人と組み、一般米よりも三倍前後の高値で売られる高収益の有機米を生産している企業もある。

 全国数ヶ所で農業生産を行っている食品会社では、日本の南北の気候差を利用し、その生産に熟達した社員が移動して現地の生産者やパートを栽培指導している。指導社員だけでなく、製氷機など一部の機械もコンテナ移動して各地で使い、人と機械を経営資源として有効活用している例もある。

 外食産業では、使う食材は自らの手で作ろうと、土地の開墾からはじめ、自社での供給体制を構築している企業もある。



4.おわりに

 中堅以下の企業にとっては、依然、農業参入のハードルは高い。また、現実的に農業のノウハウの習得には時間がかかる。しかし、企業は本業として持つさまざまな経営資源を活用し、農業参入への動きを拡大しつつある。この度の農地法の改正は、日本の農業を大きく転換させる契機となり得る。



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