《日 時》 平成23年11月24日(木)
《講 師》 元 豊田通商タイ支店 責任者 昭南アィダブリュ株式会社 代表 田村 公一 氏
《テーマ》


タイ大洪水と工場立地のあり方

〜何故これ程までに被害が拡大したのか〜

1.はじめに

 タイでは、60年、70年振りともいわれる想定外の大きな洪水が起こりました。今までどの政権も根本的な治水対策をとってきませんでした。今回洪水の起こったチャオプラヤ川は、勾配が緩く、上流から下流へ非常にゆっくり水が流れます。バンコクの中心部を土手で囲み、排水ポンプを設置し、北から南へ水を流します。土手の外側の無数に張り巡らされている運河の水門を調整し、バンコク周辺でわざと洪水を起こさせることで、首都圏を守るのです。今回の洪水では、周辺の住民が自分たちだけが犠牲になることに抵抗しました。右肩上がりの経済成長により、一般庶民の資産も増加し、権利意識が高まったことによります。
 今回、直接浸水被害を受けた日本企業は少なかったものの、サプライチェーンが断ち切れたために、被害が大きくなりました。



2.タイ王国の起源・気候

 国土は日本の約1.4倍、平坦地で見ると日本の8〜9倍あります。東南アジア本土の中央に位置し、地域のビジネスや輸送の中心地であるタイは、東南アジアの玄関口と言われています。ハードディスクドライブ、天然ゴムの世界最大生産国であり、また、米、砂糖の世界最大輸出国でもあります。
 紀元前に中国雲南省に起源をもつタイ族が南下し始め、現在のタイ王国の地にタイ族の国家が形成されたのは13世紀頃です。スコータイ王朝に始まり、アユタヤ王朝、トンブリー王朝、そして現在に至るチャクリー王朝へと続きます。現王朝で、首都はバンコクとなりました。1932年に欧州留学により民主思想を学んだ一部軍人がクーデターを起こし、絶対君主制から立憲君主制へと移行されました。
 タイは、モンスーン気候で季節風により雨季と乾季が存在します。モンスーン気候によりもたらされる大量の雨は、多くの河川を形成し、その下流域は一般に肥沃で平らであることから稲作が容易で、多くの文明の発祥が見られる人口集積地となりました。



3.タイ国工業団地の特徴

 投資奨励地域をバンコクの近郊より第1ゾーンから第3ゾーンに分けています。バンコクへの集中を緩和させるため、主に税制面で優遇措置に差をつけ、投資企業を誘導しており、現在41工業団地が登録しています。
 第1ゾーン 法人所得税の3年間の免除
 第2ゾーン 法人所得税の5年間の免除
 第3ゾーン 法人所得税の8年間の免除  その後さらに5年間50%免除
 農業用水・工業用水は、地下水を利用するため、地盤沈下の問題が起きています。1968年に初めて地盤沈下問題が報告され、1940〜1980年間の最大累積地盤沈下量は1.14mでした。1977年に地下水法をアジアでいち早く制定し、1985年から地下水料金の徴収を開始しましたが、地下水位回復と地盤沈下の緩和に実効上がらず、地下水法は1992年、2003年の二度改定されました。地盤沈下は工場の立地の地域拡大と符合して、バンコク域外へ拡大しています。



4.バンコク周辺の治水対策

 1980年代にはいり、バンコクの都市化は東北から東部に急速に進み、近年では1983、1993、1995、1996、2006年など頻繁に都市型洪水が発生しています。1995年タイ政府は日本政府にチャオプラヤ川流域の治水対策のマスタープラン作成を要請しました。2018年を完成目標とする総合治水プランが決定し、2005年バンコク首都圏庁により実施計画が策定されました。
 治水計画の骨子は、以下のとおりです。
@ 首都圏および周辺の輪中化
A 洪水をゆっくり貯めてゆっくり流して排水(無数の運河、水門、遊水池の設置)
B 小規模堤防の建設、地下トンネル貯留設備、排水ポンプの設置



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